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2001年夏の英国記 9. London(3)London (承前)フェルメールの絵だけで展覧会ができるわけではないので、同時代のオランダの画家の作品が数多く展示されている。内容は何年か前に大阪で行われた「フェルメールとその時代展」(だったかな?)とよく似ている。同じ絵も数多くあった。フェルメールが活躍した17世紀のオランダは、この国の歴史としては特殊な時代で、日本で言えばバブル絶頂期。国も豊かで市民も生活にゆとりのある時代であったらしい。そりゃそうでなければこの展覧会で展示されているような民衆がモデルの風俗画が流行ったりはしないだろう。金持ち貴族がそんな絵を注文するわけないし、買うはずもない。この時代の購買層は一般大衆であったわけだ。そしてその風俗画を最高の芸術の地位まで押し上げたのがフェルメールである。しかしどういうわけか当時は大して売れなかったらしいが。よく似た構図、よく似たモデル、その割に緻密すぎる描写に少々マニアックな光の表現が当時の世評には合わなかったのかもしれない。人気が上がってからはその独特さゆえに模写もしやすく、贋作が多発したという。現在真作と認められている作品の中にも贋作が混じっているという人もいる。まこと話題に事欠かないミステリアスな画家なのだ。 この展覧会は作品数はそれほど多くはない、というか8ポンドも払った割にはてんで物足りないと言いたいくらいだ。まあ本館がタダだから、いつもの恩返しと思えば悔しくもないけどね。どちらかと言えばミーハー的美術ファンの僕はフェルメールの作品を1枚、2枚と数えていたのだが、5枚までカウントしたところで最後の部屋に来た。この部屋はVermeer Roomと名づけられ、その名の通りフェルメールの作品ばかりが飾られている。東京ならもう犠牲者がでてもおかしくないくらいの混雑になるのだろうが、こちらは空いている。おかげでじっくりと見ることができた。 さすがに壮観である。フェルメールの作品は小さなものが多く、以前日本で見たものも小品ばかりであったが、この部屋にはThe Art of Paintingといった大作も飾られていた。まさにフェルメールの部屋である。最後まで見終わったところで気が付いたのだが、この部屋には絵が9枚飾ってある。あれ、さっきまで5枚だったから、あと8枚で終わりじゃなかったっけ?と思ってよく見たら、最後に飾ってある絵は作者名が書いていなかった。画風はフェルメールっぽいのだが、真作であるかどうか不明の一枚であるらしい。そんなのを最後に持ってきていいのかね。イギリスらしい皮肉なのだろうか。 ナショナル・ギャラリーを出たのは11時半。1時間半くらいいたことになるが、僕としては短いほうだ。どうも無意識に急いでいるのかもしれない。今日の衛兵交代式は11時半からの予定だったはずだから、ちょうど始まった頃だ。急げば間に合うかもしれない。 15分ほどでバッキンガム宮殿に到着。案の定ちょうど交代が始まったあたりだ。想像どおりものすごい観光客が押し寄せているが、そこはイギリス5回目の経験を活かしてそこそこのポジションをキープすることに成功。とは言いながら、写真でおなじみの赤い夏服による交代式を見るのはこれが始めてなので、浮かれ気分で式を眺めていた。 楽隊による演奏が始まった。ずいぶんポップな曲をやるなあと思って聴いていたらなんとこれがマイケル・ジャクソンの「ビート・イット」なのだ。伝統のこの儀式にいくらなんでもそりゃないんじゃないの。しかもなぜそんな中途半端に古い曲なのだ。謎は深まるばかりである。 さて衛兵交代式も見ることができ、大満足の僕は、今回最後の目的地であるテート・モダンへ向かった。 テート・モダンはその名の通り、あのテート・ミュージアムの現代美術のみを収めた美術館だ。ミレニアム行事の一つとして建てられたのかどうかは知らないが、2000年になってオープンした、今最も新しいロンドンの新名所のひとつである。場所はテート本館同様テムズ川沿いにあるのだが、本館のあるウェストミンスターより下流に下ったところ、地下鉄の駅で言えばブラックフライアーの近くに建っている。テート本館から歩くと少々遠いのだが、ロンドンのもうひとつの新名所、ここにもできた大観覧車の「ロンドン・アイ」を見ながら、ゆっくりとテムズ川ウォーキングを楽しんだ。 この新しい美術館をこんな短期間でロンドン新名所の地位に押し上げたのは、その所蔵内容もさることながら、美術館の建物そのものによるところが大きい。もともと発電所だった建物を使って作られた美術館であるから、その作りは他のどの美術館とも異なっている。テムズ川のほとりに見えるこの建物を初めて目にすると誰もが「えっ、これ美術館?」と思う。近づいて「でけー!」と驚く。入って「高けーっ!」と度肝を抜かれる。発電所の構造をそのまま活かした作りになっているこの美術館は5階分が吹き抜けになっている。しかもその吹き抜けの面積が恐ろしく広いのだ。サッカーでもできそうである。まさに巨大な空間を内部に持つこの美術館は、その建物自身が第一の現代美術と化している。この建物だけでも見に行く価値は十分以上にある。 展示内容は好き嫌いあろう。奇妙なオブジェが数知れず展示されているが、僕にはほとんど理解不能であった。ただ面白いのは確かである。意味不明の数々の絵画・彫刻を見ながら、「この作者は何考えてんのかなー」って想像するのは愉快だ。ロンドンにまたひとつお気に入りの場所ができた。やはりこの首都は底知れない。 |
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