The Society of British Culture

2001年夏の英国記 6.Wales(3)

ウェールズの自然

城めぐりという若干個人的な趣味の紹介の後はだれもが納得(?)の美しきウェールズの自然について語ろう。

ウェールズの南にひょっこり突き出すGower半島は自然の宝庫である。特にその南に広がる海岸の美しさはもう表現する言葉が見つからないほどだ。何年か前に北ウェールズの海を見たときの感動がよみがえってくる。ウェールズの海はいつでもどこでもすばらしい感動を与えてくれる。

中でも特筆すべきなのはGower半島の西端のRhossili Bayだ。ここに広がる白い砂浜を持つRhossili Beachの美しさは驚異的である。僕がここについたのは午後3時頃。この頃にはまた少しどんよりしていて、青空はかけらも見られず、近いうち雨が降るのは確実だろうと思わせる天気であった。にもかかわらず、がけの上からこのビーチを見た瞬間「なんてきれいな海岸なんだ!」と感動してしまうほどの光景なのである。いいかげん運転にも疲れ始めていた僕はこの景色に感激して、もうどうしてもここで一泊したくなった。

来る途中の道に1軒だけ見つけておいたB&Bに行ってみると今日はもう満室だという。ここは観光客でごった返しているというわけではないのだが、知る人ぞ知る行楽地(そりゃそうだろうな)らしく、それなりの人出はある。その割には宿泊施設らしいものはあまり見かけない。ここもどうやらあまり観光地として有名にはしたくなくて、地元の人たちがひそかに楽しむための場所であるらしい。B&Bのおばさんに「他にはないの?」と聞くと知らないという。「ビーチの近くにホテルが1軒あるから聞いてみたら?」と言われた。そのホテルならわかりやすい場所にあるので知っていたが、できればホテルと名のつくところには泊まりたくない貧乏な僕なので、しばらく未練がましくうろうろしていたら、1軒B&B(らしきところ)を発見した。

ビーチを臨む駐車場の裏手にひっそりと隠れるようにそのB&Bはあった。一応看板が出てあるのだが半分壊れているのでB&..としか読めない。本当にB&Bなのだろうか?しかしこれもチャレンジだとベルを鳴らすと気難しそうなおばさんが出てきた。
「ここってB&B..ですよね?」
「...(若干の間)そうだよ」
間が気になる。
「今晩部屋はありますか?」
「......(さっきよりさらに長い間)お見せするからついてきて」
どうにも値踏みされているようで居心地が悪いが、しかし案内された部屋は海が見えるすばらしい眺望。部屋もきれいでバス・トイレつき£20、これは安い。文句のつけようもないので泊まることにした。

車をとってくるから置くとこありますか、と聞くと 「置くところはあるけど、一旦出かけるなら予約料置いていってね」 ちゃっかりしているのである。どうにもウェールズの人たちは、お金に関してはあまり人を信用しないようだ。でもいくらでも好きな額でよいというところがちょっと人の良いところか。ならばとこちらも奮発して半額の£10渡したら大満足だったようで、そのあとはいやに愛想が良くなった。

車をとってきて荷物を運び込み、さあ散策に出かけるのでカギをくださいと聞くと、「鍵なんてついてないよ。玄関の鍵だけだよ。玄関は24時間空いてるからいつでも好きなときに出入りしていいよ」
うーん出入り自由なのはいいけど、荷物は安全なのかなー?でもこのおばさんが見張ってたら大丈夫そうだな、と貴重品だけは置かないようにして出かけることにした。

結構急な石段を降り、美しきRhossili Beachへと降り立った。Gower半島は超おおざっぱに言えば横長の長方形みたいな形で、右側が本土にくっついている。B&BのあるRhossiliの村はこの左下の角のあたりにある。そしてこのRhossili Beachの海岸は左下から上に向って南北に3~4キロくらいのびている。南側は切り立った崖になっているのに非常に広い遠浅の浜があるのはちょっと面白い。ゆるやかにカーブするビーチの反対側に北端の岬の先っぽが見える。そうなると行ってみたくなるのが僕の性分。運動不足の解消目的もあり、南から北までジョギングすることにした。

向かい風吹く中約30分かけて海岸の北端にたどり着いた。プライベートビーチのような砂浜が広がり、その先っぽだけが丘のように盛り上がっている、ちょっと亀の首のような岬である。

ウェールズの「島」

イギリス映画に「ウェールズの山」という作品がある。原題はThe Englishman who went up a hill but came down a mountain「丘に登って山を降りたイングランド人」という意味で、このタイトルは大変面白い。映画もとても面白くて大好きだ。岬の先っぽの丘に登り、海を眺めながらそんなことをボーっと考えていた。僕の他にも釣り客が3人、海に向かって釣り糸を垂れていた。彼らの連れていた犬がまとわりついてやかましい。なぜか僕は犬にはよく好かれる。

30分ほどゆっくりしてからさて戻ろうと思って仰天した。なんと帰り道がなくなっているのである。30分のうちに潮が満ちてきて、亀の首にあたる部分の砂浜が海水の下になっていたのであった。つまりはいつの間にかここは島になってしまったようである。当然考えられることであったが、他にも人がいたのですっかり安心していたのだ。そういえば彼らはテントを張っていた。最初から戻るつもりないのである。しかし幸い潮が満ちてきてまだ間もない時間であったので、なんとかまだ水深50センチくらいにおさまっている場所を発見、すそをまくって本土復帰に成功した。しかし足はぬれたがタオルもなく、帰りのジョギングは靴に水と砂が入って不快極まりなかった。さしずめ僕は「岬へ行って島から戻った日本人」といったところか(これが言いたかった)。

B&Bに戻って早速風呂に入ることにした。湯船にお湯をためているときにふと気がついたのだが、このバスルームの入り口から寝室の窓が見え、その向こうは海である。ということはドアを開けっぱなしにすれば海を見ながら風呂につかれるのでは?早速試してみたがまさにそのとおり。若干見えにくいが、風呂から海が眺められる、ちょっとした露天風呂気分だ。こりゃなかなかよい宿である。

気分もさっぱりしたので夕食に行くことにした。先ほど紹介されたホテルの横にパブを見つけておいたのでそこに向かう。扉を開けるとパブにしては妙に明るい。それもそのはず、海側の壁は全部ガラス張りでこれまた海が一望できる。今度は風呂上りにビールを飲みながら海が眺められるという趣向である。ますます素敵な夕暮れ時なのである。

次の日、朝から小雨が降っていたが近くの丘に登ってみることにした。昨日浜辺を走りながら、あの丘に登ったら海がよく見えるのだろうなと目をつけておいたのだ。羊の朝食を邪魔しながら登っていく道は意外に険しい。しかし直線を一気に登ったために早く頂上についた。

丘の頂上からの景色は予想通り素晴らしい。遠くに昨日取り残された島が見える。朝のこの時間は潮が満ちているらしく、どこから見ても島になっていた。雨はやんだが風はかなりきつく結構寒い。頂上には何もないので、反対側に下りるべくゆっくりと峰の上を歩くことにした。

丘の中腹に何かの跡地を発見。レンガの後が残っているが、鉄筋の残骸も見えるので、それほど古い建物跡ではなさそうだ。しかし完全に廃墟と化し、自然と一体化している。今ある文明もいつかは廃墟と化し、こういった感じになっていくのかなとちょっと面白いような悲しいような気がした。

丘の反対斜面を下りきって、昨日走った砂浜の真ん中あたりに降り立った。天気は急速に回復し、ほとんどあきらめていた青空と太陽に出会えた。突如として広がる抜けるような青空と、降り注ぐ陽光の下、この美しいビーチは最も美しいビーチに変わるのである。間違いなく今まで見た中で一番美しいビーチである。朝の雨上がりで人もあまりおらず、南国の隠れたリゾート地にいるみたいだ。いつもの事ながら、イギリスの天候は思いがけない感動をもたらしてくれるのであった。

結局昼過ぎまでこのRhossiliの村に滞在したので、ちょっと急ぎ足で帰ることになってしまった。宿に荷物と車を取りに行くとおばさんが窓から手を振って迎えてくれる。昨日とはえらい違いだ。最初の印象とは違ってずいぶん居心地の良い宿だったので丁寧に礼を言ってRhossiliの村を離れ、イングランドへと戻る旅路についた。短い時間であったが、とても楽しいウェールズのドライブであった。

Copyright © 1997-2009 The Society of British Culture | 2006年8月16日更新 | このサイトについて | お問い合わせ
Valid HTML 4.01!Valid CSS1!