【投稿】ロンドン・書店サイン会(Takeshiさんのレポート)

このレポートは、Takeshiさんのご厚意により掲載させていただいています。

"METRO"の広告

2000年10月から2年間、ロンドンに家族と伴に留学。
ひそかにバッタリとポールにでも会える?なんて夢の夢を持って英語もまったく分か らぬまま渡英。
ロンドンバスと地下鉄(チューブ)を乗り継ぎ、ロンドンブリッジまで通う。
地下鉄ではどの駅でも毎朝、無料の「METRO」という新聞が置いてある。無料ではあっても、情報、ニュースが結構盛りだくさん。英語は理解できなくとも頑張って毎日目を通していた。

2ヶ月少し経って、少しは同僚と会話がやや成立してきた頃、ふと「METRO」の広告 が目に入った。
「ポール・マッカートニーサイン会、彼の本を買えばサイン。12月13日、Waterstone'sで」え?ポールがWaterstone'sに来るの?Waterstone'sといえばロンドンピカデリーにある大きな書店。家族ですでに何度か行っている。イメージ的には新宿の紀伊国屋書店か?
そこで2時からとある。何度も読み返すが信じられない。ジェイソンという同僚に「本当にポールが来るの?」と「METRO」を見せながら聞くと、「本当だ」と。

家に帰ると妻が偶然、その日にWaterstone'sに行ってきたらしく「張り紙にポールが 来るって書いてあった」。いよいよ本当だ!!
ロンドンに来てからわずか2ヶ月でポールに会えるぞ!!!会ったらもう日本に帰ってもいいくらい!!

12月13日、Waterstone's

さて当日は水曜日という普通の日。2時から開始というから念のため9時には行っておこう。いくらなんでも9時にいけば余裕で順番は前の方だろう。職場には「大事な人と会うので」と言って休む。

12月13日、朝。最初はダッフルコートを着ていこうと思ったが、日本から持参し たビデオがポケットにほんの少しで入らない。別のポケットの大きいジャケットにした。そして1眼レフカメラを首にかけて。

地下鉄のピカデリー駅の階段を登る。地上に出たらWaterstone's書店が見える。 どれくらい並んでいるか少し遠くて見えない。
少しずつ近づくと、正面玄関前に寝袋やテントが見える。えー、徹夜したのか!でもそう人数はいないだろう。玄関前のメイン通りに沿って何人か見えた。
そう多くはない。やった!と思ったら、何と左に曲がる細い通りには長蛇の列が!!
げ、どこが終点なんだ・・・結局、細い通りを数十メートル、さらに右の通りに入って何メートルかでやっと終点。早くもサイン会終了時間までにこの順番まで来るのか心配になる。9時にくれば余裕と思っていたのが間違いだった。未だにポールでこんなに人が集まるなんて・・・自分が一番ポールを知っているつもりでいたが・・・

1人前は日本人女性が1人で。主人にたのまれて来たのだとカメラを持っていた。 どんどん後方にも人の列が伸びていく。
並んでいる現地店は本通りから1本裏の道。きっと表玄関周囲は大変になっているの か、車のクラクションが絶えない。
どこかのテレビカメラが来て我々の列を行ったり来たり。
天気は晴天であるがやっぱり12月のロンドン。寒い。

この日の模様は日本のNHKニュースでも報道されたそうだ。書店でのサイン会自 体、行うのはめずらしいという事だったらしい。

やっと開始時間の2時が近づく。もうポールは書店に入っているのだろう。
2時を過ぎ、じわじわと列が進む。少し前の列に1人の若い女性が割り込んだ。
友人が並んでいたのだろう。すると周囲から「何だあの女は!」「割り込んだぞ!」「ちゃんと並べ、この野郎!」と罵声を浴びまくる。周囲は騒然となってきた。
タクシーの窓から顔を出したおばあちゃん、「何の行列なの?」と驚いて叫んだ。前にいた女性が「ポール・マッカートニーのサイン会!」。

そうこうしている間に時間が経つ、確かサイン会は1時間のみだったと思う。
思うようには列が進行しない。
だんだん周囲はあきらめムードになってきた。
このまま並ぶのか、サインはあきらめて玄関で書店から出るポールを待つのか・・・

迷っているうちに列がにわかに解けて、みんな玄関へ向かっている。しかたない、自分も走って玄関へ。すると周囲は人ごみで、どこが玄関かも分からない。
何も知らずに通りかかった女性がポールがいることを知り「Oh,My God!!」と叫んで いる。
ますます前を通る車のクラクションが激しくなる。
ポールが出てきた時の撮影できる隙間を見つけようとするが、人ごみで無理。

そうこうしていると、周囲から拍手と喚声。女性数人が何かの歌を歌っている。
背の低い僕は何も見えない・・・すぐ前に止めた車に乗ってポールはすぐ去ったよう だ。
一気に周囲からため息が出て、群衆は散らばりかけた。
サインどころか、ポールのポの字も姿が見えなかった・・・
かなり落ち込んで、その場を去ろうとした。

その瞬間、どこからともなく日本人の声で「車を追いかけよう!」
その声で僕はポールのベンツを追いかけた。10人近くいたと思う。
すると、信号で停止。僕はベンツの後方ボンネットに上半身を乗り上げて、右手でボンネットを叩き(高級車は音がでない!!)、車内を見たが、ガラスがスモークで中がまったく見えない。
そのとき、別の人が写真を撮った際にフラッシュで車内が明るくなった。
いた、ポールは後部中央にいた。窓越しに20cmくらいか?
ポールは後ろを振り向いてうなずきながら右指を立てて僕を見てくれた!!

やがて信号は青。今の、ビデオにちゃんと撮れたかな。ポールを本当に見たのか? 放心状態でピカデリーの交差点真ん中で立ち尽くす・・・
車にはねられそうになりながら交差点をふらふらと出て、帰途に。
本当の試練はこれからだった・・・

事件

大目標の「ポールに会って握手し、サインをもらう」からは逸脱してしまった無念さと、ベンツの中から確かに自分に向かって振り向き、親指を挙げてくれた、という満足さのバランスをもて遊びながらビクトリア駅行きのバスに乗ることにした。ちゃんとビデオが撮れたか心配で巻き戻して小さなモニターで確認しようとしたが、妙に晴天で太陽の反射で液晶がはっきに見えない。数秒しない内にバスが来た。後でゆっくり見よう。

その駅からは徒歩10分程度で家族3人で住むフラット(アパート)。たった10分 なのに何を思ったか、「家に電話しよう」。駅の公衆電話を探しながら、ズボンの財布に手を伸ばした。それまでは上着の右ポケットに入れたビデオカメラを大事に右手で握っていた。

コインを財布から出そうした時、左後方から“Excuse me!!”と大きな声。思わず左 後方を見ると、20代くらいの若者が体を左右にくねらせ手を広げて踊っている。何だこいつは!!。。気を取り直して歩き始めると、後ろに走り去る3人の若者が・・・

ビデオカメラが右ポケットから無くなっているのに気が付くのに数秒もかからなかっ た。

最初に声をかけてきた若者はビデオのポケットと反対側から声をかけ、奇妙な動きを して気を留めておく、残りの者はビデオをさらって行く係り。ちょうど手がビデオから離れ、声をかける絶好のタイミングを待っていたのだろう。

どうしようもない落ち込みで、次に打つ手が思い浮かばなかった。

トボトボ帰宅し、家族で最初にやったことは、日本で入った損害保険の確認。半額程度の金額が戻ってくるらしい。しかし、それには警察による盗難証明書が必要だ。すでに夕方でかなり寒い。ビクトリア駅の前にある警察署へ1人で。道中、駅で電話しようとせず、真っ直ぐ家に帰っていれば・・・ポケットに蓋のあるダッフルコートを着ていれば・・・などともう戻ってこないビデオに、テープに写っているはずのポールに思いを馳せながら鼻水を流しながら警察署の人に。すると、盗難にあった駅内の警察に行ってくれと。どこにあるのか、駅内を迷いながらやっとそれらしき場所にたどり着き、やや太った署員に成り行きを説明。

すると「防犯カメラに写っているかも」と現場まで案内するように言われた。2,3分一緒に歩いたが、「保険に入ってるの?」など英国の警察は冷たいと聞いていたが結構人なつっこかった。現場あたりに案内したが、その後は無言で(やっぱり冷たい?)、詰め所のようなところに戻った。書類を書くと、後で証明書を送ってくれるそうだ。

波乱に満ちた1日であったが後日、日本の損害保険会社から入金されてきた。くやしいので、盗まれたものと同じビデオカメラを買いに出かけた・・・
(続く)

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